横浜市民の生活に密着して流れている大岡川。この 大岡川の源流がどこにあるのかは、意外と知られていないのではないでしょうか。今号では、大岡川のプラスチックゴミなどを定期的に拾ったり、この川の源流域の案内を通じて、環境保護や環境保全の啓発活動に取り組んでいる【 法人海の森・山の 森事務局理事長】の豊田直之さんに文章と写真を寄せていただきました。豊田さんは写真家として、その写真を生かしながら積極的に環境活動を展開されています。

(写真と文 NPO 法人海の森・山の森事務局 理事長 豊田直之さん)

 

横浜にある小さな大自然エリア

京急沿線に沿うように上大岡、弘明寺、南太田、黄金町、日ノ出町各駅の脇を流れ、みなとみらいへと河口をもつ「大岡川」。横浜市の中心部を流れ、蒔田公園で元 町方面へ流れる中村川と分流するものの、江戸時代から運河としても親しまれてきた河川だ。

大岡川の源流域は、磯子区、港南区、金沢区、栄区、4つの区との境付近にある「円海山(えんかいざん)」 標高153.3メートルの、小高い丘と言うべきとこ ろの中腹にある。

氷取沢のバス停でバスを降り、川沿いに氷取沢エリ アへと進む。川幅は細くなり、農地脇をさかのぼると、「氷取沢市民の森」へと入る。ちょうど横浜横須賀道 路脇にある里山なのだが、驚くような自然が残された エリアである。氷取沢という名のとおり、かつて鎌倉 時代後期には氷を切り出した地であるとされている。 この森に入ると、すーっと2 °Cほど気温が下がった感 があるのは、氷が取れるほど周りの地よりも気温が低 かったことを意味しているのかもしれない。

「氷取沢市民の森」は、ある程度は整備された場所 であるとはいえ、原生林のような森に囲まれ、静かに 大岡川源流となる沢が流れている。そしてここを訪れ る誰もが驚くのは、野鳥のさえずり。どれだけの種類 の野鳥がここに生息しているのかわからないが、「蝉 時雨」ならぬ「野鳥時雨」の洗礼を受けることになる。 カワセミやサンコウチョウなどの珍しい野鳥も出現す ることが多く、この辺りを散策すると、大砲のように 大きな望遠レンズを抱えた野鳥撮影マニアにも多く出 くわす。

また、だいぶ時間が経って表記が薄れかけている看 板が沢の脇に立っている。よく読むと、ゲンジボタル が棲息し、時期になるとこの辺りの沢で飛ぶ姿が見ら れるのだそうだ。夏から秋にかけてはトンボの種類も 多く、今では市街地ではなかなか見られなくなったオ ニヤンマやギンヤンマはもちろんのこと、見たことも ないような美しい羽色をしたトンボも見られたりす る。トンボが多く棲息することは、その辺りの水質も よいからこそ。さらに野鳥が多く棲むエリアということは、エサとなる昆虫が数多く棲み、きれいな水場があ る証拠。多くの昆虫が棲むということは、植物も豊富で、 土壌も豊かであることを示す。先日このエリアで鷹も確 認されており、食物連鎖の頂点である猛禽類の鷹も生息 することは、ここが小さなエリアではあるものの、今の 世の市街地には珍しく環境のバランスが取れた大自然が 存在しているという証拠に他ならない。横浜の宝として 大切に残しておきたいエリアである。

そんなほぼ平らな氷取沢エリアをさらに進むと、緩や かな坂道になる。途中に大岡川源流域としめす標識があ る。まさに円海山の中腹。細くなった沢はこの先で途切 れるが、岩と岩の間から滲み出したしずくがぽたりとた れているような場所である。

階段状に整備されつつも、野性味のある坂道をさらに15分ほど登ると、分岐点に出くわす。左へ進むと鎌倉へ、 右に進むと5 分で展望のよい休憩所とかかれた大きな看 板が見つかる。ここは、かつてペリーの黒船が横須賀に 現れた時、坂本龍馬や土方歳三がこの鎌倉への道から鎌 倉を経て、さらに山の中の道から横須賀へ至ったという 話がある場所なのである。

鎌倉への道はまた別の機会に譲るとして、右側の休憩 所へと向かう。休憩所からの眺めは、海老名市や伊勢原 市を見下ろしながら、その奥に富士山がそびえ立つ。な にも手前に遮るものがない。こんなまるごとの富士山が 横浜から見られることも、とても意外な富士山絶景ポイ ントである。

私は、この小さな大自然の残る大岡川源流域の透き通っ た水が、みなとみらいにあるこの川の河口までそのまま 流れるような川に甦らせたいと強く思っている。そのた めにも、多くの人たちにこの大自然の残るエリアを見て もらって、この川や最後に流れ出る先の海を思いやる生 活を一人でも多くの人が心がけてくれれば、きっとそん な夢のような川に甦らせることができるはずだと信じて 活動をしている。